「社員と業務委託を区別しない」は法的リスクのサイン

はじめに

「うちは社員も業務委託も区別しません」

スタートアップやベンチャーの現場で、こうした言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

一見するとフラットで良さそうに聞こえますが、法的・構造的には実は危ないサインです。

本記事では、

  • なぜ社員と業務委託を同じように扱えないのか
  • 同じ扱いをすると何が起きるのか
  • 具体的な事例
  • 経営者・リーダー・フリーランスがそれぞれ注意すべきポイント

を、実務目線で整理します。


結論:社員と業務委託は「同じように扱えない」

結論から言うと、社員と業務委託は同じようには扱えません。

理由はシンプルで、日本の法制度では次のように位置づけられているからです。

  • 社員(雇用):労働力を提供する人(民法第623条「雇用」、労働基準法第9条「労働者」)
  • 業務委託:成果を提供する事業者(民法第632条「請負」、第656条「準委任」)

このように法律として区別されているため、社員と業務委託は同じように扱うことができません。

業務委託とは何か?

会社が社外のフリーランスに業務を委託する際の契約が業務委託で、成果物や業務の遂行に対して報酬が支払われます
業務委託には、請負契約準委任契約の2種類がありますが、どちらも以下の特徴があります。

  • 裁量の委譲:作業の方法や手順は受託者が決定する
  • 時間の自由:作業時間や場所は受託者が決定する
  • 独立性:受託者は独立した事業者として業務を遂行する
  • 指揮命令権がない:クライアントは作業の方法や手順を指示できない

雇用契約との違い

雇用契約と業務委託契約は、法的に全く異なる性質を持ちます。

雇用契約の特徴

雇用契約は、労働力を提供する契約です。

  • 労働力の提供:時間と労力を提供することで報酬を受け取る
  • 指揮命令権:使用者(会社)が労働者に対して業務の内容や方法を指示できる
  • 時間の拘束:就業時間や場所が指定される
  • リスクの所在:使用者が業務のリスクを負う

なぜ区別が重要なのか

この区別が曖昧になると、偽装請負・偽装委任とみなされる可能性があります。

偽装請負・偽装委任とは、実質的には雇用関係にあるのに、業務委託契約(請負契約や準委任契約)の形式を取ることで、労働法上の義務(社会保険、残業代など)を回避しようとする行為です。

社員にできて、業務委託にできないこと

社員にだけ許されている管理(指揮命令権)

指揮命令権とは、次のような権限のことです。

  • いつ働くかを決める
  • どこで働くかを決める
  • どの順番で、どの方法で作業するかを指示する
  • 業務の進め方を細かく統制する
  • 従わなければ不利益を与える(評価・報酬・契約継続など)

これは 労働契約(雇用)にだけ認められている権限 です。
こういったことを業務委託に行うのは法律的にNGです。

問題になりやすいケース

社員と業務委託の区別をしていない現場でありがちな、問題になりやすいケースです。

1. フラットなことが良い文化だと思っている

「区別しない=対等」という認識は一見よさそうに思えますが、そもそも、法律の扱いが違うため、同じ扱いはできません。法律に則った対応をする必要があります。

2. 管理職が雇用しか知らない

管理職に法的な知識がなく、業務委託を社員と同じように管理することに問題意識がない場合があります。

3. 社員も業務委託も同じように扱いたい

現場でよくある本音です。

  • 業務委託でも一緒にSlackにいてほしい
  • 社員と同じスピード感で動いてほしい
  • 社員と同じように働いてほしい

これは全部、雇用の安心感を委託で代替しようとしている状態です。雇用関係の契約をするのが本来あるべき姿です。

具体事例

エンジニアの現場でありがちな具体的なケースを例に説明します。

法的リスクが高いケース

以下のケースは、明らかに雇用関係とみなされる可能性が高く、法的リスクが高いケースです。

ケース1:出退勤の管理を求められる

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「業務委託でも、毎日9時から18時までSlackにいてください。離席する時は必ず報告してください。」

問題点:勤務時間の拘束と離席連絡の義務は、指揮命令権の行使です。業務委託にこれを求めることは、雇用関係とみなされる可能性が極めて高いです。

ケース2:作業方法を細かく指示される

① 実装手順をステップ単位で指定される場合

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1. まずこのAPIを呼んで
2. 次にこのstateに入れて
3. useEffectはここで使って
4. この条件分岐で描画を切り替えてください

② レビューが「やり方の矯正」になっている場合

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「この書き方は違います。このように直してください」

問題点:作業の方法や手順を細かく指示することは、指揮命令権の行使です。業務委託では、作業の方法は受託者が決定します。

ケース3:即レス文化を強制される

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「業務委託でも、Slackのメッセージには1時間以内に返信してください。」

問題点:常時オンラインを前提とした即レス文化は、時間の拘束にあたります。業務委託では、作業時間や場所は受託者が決定します。

ケース4:ビデオチャットでの常時接続を要求される

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「勤務中はビデオチャットで常時接続しておく必要があります。作業中は常にカメラをオンにしておいてください。」

問題点:勤務時間中にビデオチャットで常時接続を要求することは、時間の拘束場所の拘束の両方に該当します。業務委託では、作業時間や場所は受託者が決定します。

グレーなケース

以下のケースは、境界線上で、実態によっては雇用関係とみなされる可能性があります。

ケース1:定期的なミーティングへの参加

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「毎週月曜の10時から定例ミーティングがあります。業務委託の方も参加してください。」

判断基準

  • 問題あり:参加が必須で、欠席すると評価に影響する場合
  • 問題なし:参加は任意で、成果物の確認や情報共有が目的の場合

ケース2:コードレビューの指摘

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「この実装方法はパフォーマンスに問題があるので、こちらの方法に変更してください。」

判断基準

  • 問題あり:実装方法を強制し、従わないとレビューをOKとしない場合
  • 問題なし:技術的なアドバイスや改善提案として提示される場合

ケース3:納期の設定

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「この機能は来週金曜までに完成させてください。」

判断基準

  • 問題あり:納期が短すぎて、実質的に作業時間が拘束される場合
  • 問題なし:成果物の納期として、合理的な期間が設定されている場合

ケース4:Slackでのコミュニケーション

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「業務委託の方も、社員と同じようにSlackでコミュニケーションしてください。」

判断基準

  • 問題あり:常時オンラインを前提とし、即レスを強制する場合
  • 問題なし:成果物の確認や情報共有のためのコミュニケーションツールとして使用する場合

ケース5:稼働時間

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「準委任契約で、月に160時間稼働していただきます。」

判断基準

  • 問題あり:毎月必ず160時間働くことを義務付けている場合(時間の拘束)
    • 例:「月160時間の稼働を必須とします」「160時間未満の場合は報酬を減額します」
  • 問題なし:月160時間を想定しているが、時間の拘束はなく、実際に行った事務処理の時間に対して報酬が支払われる場合
    • 例:「月160時間程度を想定していますが、作業時間や場所はお任せします。実際に作業を行った時間に対して報酬を支払います」

重要なポイント

  • 準委任契約で時給ベースの報酬設定は法的に可能です
  • しかし、「月にxxx時間働くことを必須とする」という時間の拘束は、雇用関係とみなされる可能性が高いです
  • 実際に行った作業の時間に対して報酬が支払われる場合は、問題ありません

問題なし

以下のケースは、業務委託として適切な運用です。

ケース1:成果物ベースの評価

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「この機能の実装をお願いします。完成したら、コードレビューをして納品してください。」

適切な理由:成果物の完成を目的としており、作業の方法は受託者が決定します。

ケース2:技術的なアドバイスの提供

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「この機能は、パフォーマンスを考慮するとこちらの実装方法がおすすめです。ただし、最終的な判断はお任せします。」

適切な理由:技術的なアドバイスは提供していますが、最終的な判断は受託者に委ねられています。

ケース3:成果物の確認とフィードバック

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「完成した成果物を確認しました。この部分は要件と異なるので、修正をお願いします。」

適切な理由:成果物の確認とフィードバックは、業務委託契約の範囲内です。ただし、修正の方法は受託者が決定します。

ケース4:情報共有のためのコミュニケーション

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「プロジェクトの進捗を共有するため、週1回、30分程度のミーティングを設定しています。参加は任意です。」

適切な理由:情報共有が目的で、参加が任意であれば、時間の拘束にはあたりません。

ケース5:成果物の納期設定

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「この機能の実装をお願いします。納期は2週間後を想定していますが、作業の進め方はお任せします。」

適切な理由:成果物の納期として合理的な期間が設定されており、作業の方法は受託者が決定します。

経営者・リーダーに伝えたいこと

もし、

  • 常に一緒に動いてほしい
  • 時間帯を揃えたい
  • 社員と同じように働いてほしい

のであれば、業務委託ではなく雇用を選ぶべきです。

業務委託は、

  • 裁量を渡す
  • 成果で評価する

という覚悟が必要な契約形態です。会社の都合で契約を終了できる社員ではありません

同じように扱った場合に会社が被るリスク

現実的なリスクは次の通りです。

  • 労基署からの是正勧告
  • 残業代・社会保険の遡及請求
  • 外注費の税務否認(業務委託として計上した外注費が、実態が雇用関係と判断され、給与として計上し直すよう指摘される)
  • IPO・M&A時の重大指摘

実際に厚生労働省はフリーランスが実態は労働者として働いていないかの確認を強化する方針を掲げており、全国の労基署に相談窓口が設置されています。

「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」を労働基準監督署に設置します

フリーランスがクライアントを選別するために

健全なクライアントは、次のように答えられます。

  • 「勤怠管理はしません」
  • 「成果物ベースでお願いします」
  • 「やり方はお任せします」

社員と同じようにやっていただきたいという考え方の会社の場合、業務委託は長期的には消耗戦になりがちです。

正社員脳 → 業務委託脳 への切り替え

長年正社員で経験を積んできたエンジニアにとっては、勤怠管理は当たり前の概念です。私もそうでした。
しかし、正社員と業務委託では法的に区別されるため、考え方を切り替える必要があります。

整理すると、こうです。

正社員の世界

  • 時間を会社に提供する
  • 管理されるのが前提
  • 出勤・退勤が価値の測定単位

業務委託の世界

  • 専門性・判断・作業を提供する
  • 管理されないのが前提
  • 時間は 計測するが、拘束されない

おわりに

「社員と業務委託を区別しない」という言葉は、善意であっても、無知であっても、リスクのサインです。
契約形態を正しく理解し、お互いが健全に協力できる関係を構築することが、結果的にプロダクトにも組織にもプラスになります。

この記事が、

  • 経営者・リーダーにとっては運用を見直すきっかけに
  • フリーランスにとってはクライアント選別の軸

になれば幸いです。